イシダイの産卵
イシダイの産卵期は4~7月。水温が20℃前後の暖かい時期に、日没後の夜間に行います。外海に面した沿岸域を産卵場所として、数回に分けて200万粒ほどの卵を産みます。オスは15cm前後になる1歳以降、メスは20cm前後になる2歳以降で成熟し、産卵に参加します。産卵行動が始まると、まずは1尾のメスの後ろを数尾のオスが付いて回り、最後まで残ったオスとメスがペアになります。お互い数回身体を擦り合わせたあと、メスが水面近くまで浮上し、身体を反転して放卵。それに合わせてオスも放精します。
卵の大きさは0.8~1.0mm程の球形で無色透明の分離浮性卵です。水温30℃で約36時間かけて孵化(ふか)します。孵化直後の仔魚は全長2~2.5mmほどの大きさで、頭部腹面に卵黄を抱えています。孵化してから約4日で卵黄を吸収し、3mm前後の大きさになります。その後、5~6mmに成長した稚魚は流れ藻に付いて浮遊生活を始めます。このころからイシダイの特徴である歯が現れます。
稚魚の時期は小型の浮遊性甲殻類を食べているためか、体長10mm前後まで歯は尖っています。さらに、13mm前後になると体側に5条の横帯が現れ、体高が高くなり、だいぶイシダイらしくなります。3cm前後の大きさになると、港の船や養殖生簀(ようしょくいけす)の下などに移って生活し始めます。全長8㎝を超える頃から底生生活へと切り替わります。
底生生活を始めたイシダイは食性も雑食へと変わります。底生動物や海藻類を食べるようになり、歯は徐々に先端が丸くなります。そして完全に臼歯状(きゅうしじょう)になると、フジツボやウニなど岩場に付着している動物を好んで捕食するようになります。食性が反映された歯の形状変化、実に興味深いです。
ここからは余談ですが、南アメリカ原産のパクーという雑食性の淡水魚がいます。この魚は主に植物類を好んで食べ、落下してきた木の実すら食べるそうです。そのためか歯も臼歯状で、人間の歯とよく似た形をしています。ちょっと不気味な感じがしますが、歯に注目して魚を観察してみるのも面白いかもしれませんね。
イシダイの漁
イシダイは定置網(ていちあみ)で混獲されます。特に神奈川県の小田原近海ではトン単位で漁獲され、神奈川県の※プライドフィッシュに指定されています。といっても他の魚と比べると漁獲量は少ないため、高値で取引される高級魚です。そんな希少なイシダイですが、以前は東京の小笠原島漁協で、親魚から卵をとり稚魚まで育てる種苗(しゅびょう)生産が行われていました。
※全国漁業協同組合連合会が主導している取り組みで、漁師が選んだ本当においしい魚のこと。
養殖業者や自治体に出荷された稚魚は、イシダイの増殖促進のために海へ放流されていたそうです。イシダイといえば漁より釣りのイメージが強いですよね。「イシダイ師」と呼ばれるイシダイ釣りの専門家までいるほど人気の魚です。人気の理由は「磯の王者」と呼ばれる引きの強さと、「幻の魚」と呼ばれるほどなかなか釣れないこと。幼魚のころは好奇心旺盛ですが、大きくなると警戒心が強くなりエサに食いつかないそうです。
イシダイの味覚
イシダイの旬は夏とされていますが、通年漁獲されています。七尾市などの鮮魚店では40cm以下の小さめのイシダイを多く見かけますが、それ以上の大きさのものは殆ど高級店などに卸されているので、もしスーパーに大きなイシダイが並んでいたらラッキーです。比較的日持ちがよい魚ですが、目が澄んでいて体表面にぬめりの多いものが新鮮です。
白身で淡白な味なので、ご家庭ではよく煮付けで食卓に並びます。ただし身が硬いため、塩焼きにすると身肉が硬くなりすぎてしまうので焼き料理はあまり向いてないようです。しっかりした歯ごたえのある料理がお好きな方は試してみてはいかがでしょうか。
そして締まった身をもつイシダイですから、薄造りの刺し身にして食べると美味しいでしょう。磯臭さが気になるようでしたら昆布締めに。洋風にカルパッチョにしていただくのも良いですね。真薯(しんじょ)にすれば、イシダイの美味しさを柔らかく楽しめます。鯛飯(たいめし)にして、出汁がしみたご飯とほっくりとした身を堪能してみるのもいかがでしょうか。