マナマコの歴史

ナマコは昔から日本人にとって馴染みのある存在だったようです。古事記の中には、猿田彦命(さるたひこのみこと)という神様が海の生き物達を集めて忠誠を誓うように命令したのですが、口の無いナマコだけが返事をしなかったので、猿田彦命の妻とされる天宇受売命(あめのうずめのみこと)という神様が怒って、ナマコの口を刀で切って作ったというエピソードがあります。

干ナマコは昔から珍重されていたようで、古代の法令である養老律令や延喜式の中には租税の一つとして記述されていますし、江戸時代に記された「本朝食鑑(ほんちょうしょっかん」という日本全国の食物を集めた図鑑にも食べ方や効能が紹介されていました。また、江戸時代には干ナマコは干アワビやフカヒレと並んで「俵物三品(ひょうもつさんぴん)」と呼ばれ、清国への重要な輸出品でした。現在の中国でも日本産の干ナマコは高級品として扱われています。

マナマコの形態

通常のマナマコ

マナマコを含めナマコの仲間は全て海に棲んでおり、淡水や河口のような気水域には生息しません。ナマコの仲間は世界に約1,500種いて、日本にはその中の約200種が分布しています。ただし、食用になるのはマナマコなど約30種程度です。

ナマコはウニやヒトデと同じ棘皮(きょくひ)動物の仲間で、無脊椎動物としては大きく成長します。マナマコの寿命は約10年ほどで、大きいものは体長30㎝くらいになりますが、市場に生の状態で出回るものは体長10㎝前後のものが多いようです。

雄と雌の区別がありますが、繁殖期に精巣や卵巣が大きくなった状態でも肉眼で判別することは難しい、と言われています。マナマコの身体は細長い円筒状で、一端に口、反対側の端に肛門があります。背面や側面には円錐状の疣足(いぼあし)が不規則に並んでいます。ただ疣足と名前がついていても、これを使って移動することはありません。移動するときは、歩帯(ほたい)と呼ばれる腹側に3列に並んだ管足を使って、ゆっくりと海底を這います。この管足の先には吸盤状のものがあり、岩に身体を固定できます。

口の周りには管足が変形した触手が冠状に生えており、その触手を使って海底に積もった微生物の死骸などの有機物を集めて食べています。無脊椎動物であるマナマコに骨格はありませんが、体壁の真皮の中には色々な形をした石灰質の骨片がたくさん散らばっています。この骨片は顕微鏡で見ないとわからないほど小さいため、「微小(びしょう)骨片」と呼ばれます。

マナマコを握ったりして刺激を与えると硬くなるのは、体を縮めることで微小骨片の密度が高まるためです。この硬さが変わる体組織は「キャッチ結合組織」と呼ばれ、場面に応じて様々に変化します。

熱帯に棲むシカクナマコの仲間には、手で握るとまず体を硬くし、次にキュビエ器官を放出し、それでも逃げられないと判断すると指の間からドロドロと溶け落ちるほど体を柔らかくするものがいます。これも特殊な結合組織の産物ですが、不思議な生き物もいるものです。

硬くなったマナマコ