ブリの回遊

琉球諸島を除く日本各地に生息するブリは、北海道から九州にかけての日本列島沿岸を季節の移り変わりとともに南北に行き来する回遊魚。その回遊海域は広大で、朝鮮半島東部や台湾に達するまで旅をするものもおり、韓国でも漁獲されています。

しかし、ブリは生まれてすぐに回遊を始めるわけではありません。前ページにもありますように「モジャコ」と呼ばれる3cmくらいまでの小さな稚魚(ちぎょ)の時期は、沿岸から流出する流れ藻にくっついて、動物性プランクトンを食べながら黒潮や対馬海流(つしまかいりゅう)にのって北上します。この稚魚から少し成長して10cmくらいの若魚になると、流れ藻から離れて沿岸に定住し、成長を待つのです。そして、体が70〜80cmくらいに成長する3歳の冬が来ると、機は熟したとばかりに、いよいよ広大な世界へ回遊の旅を始めます。

ブリのカマ焼き

春から夏にかけてエサを求めて北上したブリは、北の海で豊富なエサをたっぷり食べて、秋には南下をはじめます。その後、冬から春にかけて東シナ海などの産卵場に達して産卵するというのが、ブリの一般的な回遊ルートです。エサを体に蓄えた南下の道中が、ブリの脂が最ものっている時期なので、おいしい「寒ブリ」となるわけですが、その回遊にはいくつかのパターンがあることがわかっています。

体重が10kg前後まで成長した3歳の秋〜冬以降、産卵場である東シナ海から北海道の沿岸沖の間を往復するパターンで広域回遊するものもいれば、東シナ海から能登半島沖、または山陰間までの往復という中規模な回遊をするものもいます。他にも、1年以上もの間、能登半島沖に滞留(たいりゅう)し続けるという珍しい回遊パターンをもつものもいます。成長とともに呼び名が変わっていくブリは、稚魚から成魚へと体が成長するにつれて住処も変わっていく、まさに変化し続ける魚なのです。

ブリの栄養

旬の寒ブリは、醤油もはじくといわれるほど全身に脂がのっています。脂肪分が筋肉組織の中に入り込んでいるので、寒ブリのお刺身はとろけそうな脂の旨みがありながら、脂っこさを感じさせないのです。さてこのブリ、おいしい上に、栄養もたっぷり含まれた青魚です。肉類と遜色のない良質のたんぱく質と脂質が含まれ、ビタミンや鉄も豊富です。また、青魚の代表的な栄養成分であるEPAやDHAもバランスよく含んでいます。

これらは低血圧、貧血、動脈硬化、心筋梗塞、脳の老化などの予防と改善に効果を発揮します。また、敬遠されがちな血合(ちあい)肉や皮の部分は、実は栄養のかたまり。血合肉には、悪玉コレステロールを減らすタウリンが豊富に含まれているのです。これらの栄養素を身体に取り込むためには、火を入れずに生のお刺身でいただくのがもっとも効果的。身体のためにも、ブリは残さずにすべていただきましょう。

ブリのお刺身

また、養殖ものが多いブリですが、天然ものと養殖もののたんぱく質と脂質の含有量(がんゆうりょう)は、ほぼ同じです。ただ、ビタミンやミネラルは天然もののほうが、たくさん含まれています。お造り、お寿司、塩焼きに照り焼きと、ブリを使ったお料理は、私たち日本人の食生活にとてもなじみ深いものになっています。

ところでこのブリ、頭の先から尻尾の先まで、余す所なく料理できるということをご存知でしょうか?その身はもちろんのこと、胃袋や内臓は甘露煮に、心臓は塩焼きにすると、とてもおいしくいただけます。アラは大根と一緒に煮付けて、ご存知の「ブリ大根」に、頭はまるごと焼いて「かぶと焼き」にできます。

また、脂の少ない尾の部分や、身をはがしたあとの皮も、細くきざんだ大根や人参とあえて、さっぱり「なます」にするのがおすすめです。もちろん、骨もブツつ切りにして、アラ汁の貴重なおだしに使います。昔の人の、食材を無駄にせずにおいしく食べきる術は、食べ物を大切にし、食材に感謝する心からきているのでしょう。その偉大な知恵を大切に、しっかりと受け継いでいきたいものです。

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