刻々旬々・能登の美味しい魚介[春]

海のイルミネーション

ホタルイカ

富山湾滑川(なめりかわ)市の海域で群れをなすホタルイカは
「ホタルイカ群遊海面」という名前で
国の特別天然記念物に指定されています。
特別天然記念物で漁獲されているのは
珍しいとも言われています。

ホタルイカの形態

ホタルイカは腕を含まない胴体(外套膜/がいとうまく)の長さが大きくても7㎝ほど、胴の幅が2㎝ほどで、重さも10g程度の小さなイカです。他のイカと同じように胴体は筋肉質で、ポンプのように伸び縮みさせて使うことでロートから勢いよく水を吹き出し、海中を素早く泳ぎます。このロートの動きは自由自在。上下左右に動かすことができ、器用に方向転換することができます。

胴についているヒレのことを「耳」と言ったりしますが、ヒレは姿勢を保つ役割があり、これを使って音を聞いているわけでありません。「パンの耳」みたいなもので「端っこにある部分」という意味なので、お間違えなく。

さて、ホタルイカの体には発光器と呼ばれる光を放つ器官が1000個ほどあり、場所によって3種類に分けられます。

一つ目は腕発光器。
第四腕の先端にゴマ粒ほどの大きさの発光器が3個あって、一番明るく光ります。

二つ目は皮膚発光器。
胴と頭の腹側や水を吹き出すロート、第三・第四腕の皮ふにとても小さな発光器がたくさん散らばっています。

三つ目は眼発光器。
眼球の腹側に5個の発光器が一列並んでいて、両端の2個は他のものより大きくなっています。

このホタルイカの光は、ルシフェリンという発光物質にルシフェラーゼという発光酵素が作用することで生み出され、「冷光(れいこう)」と呼ばれるように熱を感じないのが特徴です。

白熱灯や電気ストーブなどのような、光と一緒に熱を出すものと比べると違いがわかるでしょうか。これは昆虫のホタルが光るのと同じ仕組みなのですが、発光物質や発光酵素の構造が少し違います。そのためホタルが黄色に光るのに対し、ホタルイカは青緑色に光るのです。ちなみに、ルシフェリンやルシフェラーゼの語源はルシファー。ラテン語で「明けの明星(金星)」を意味する言葉で、熱を出さない神秘的な光にぴったりです。

ホタルイカの謎

そんなホタルイカはなぜ光るのでしょう。これまでの研究によって、いくつかの理由が挙げられています。

まず身を守るため。
敵から逃げる時に腕発光器の強い光をパッと一瞬つけて消すことで、「光のオトリ」として使います。私たちも暗い時にいきなり懐中電灯のような明るい光を向けられると、何があるのかわからなくなりますね。

次に身を隠すため。
ホタルイカは体を横にして泳いでいるので、上側(背側)に太陽の光が当たることになります。下から襲おうとする敵からは明るい海面側にホタルイカの姿が影絵のように浮かぶので、見つけやすい状況です。

そこで下側(腹側)にある皮膚発光器を光らせることで自分を太陽の光に溶け込ませ、敵から見つかりにくくしていると考えられています。これはカウンターイルミネーションと呼ばれる使い方で、日中は腹側を光らせているのですが夜になるとそれをやめてしまいます。

「夜に光ってる映像をよく見るんだけど」と言われるかもしれませんが、あれは網で捕らえられたホタルイカが必死に抵抗して光っている姿。主に光らせているのも腕発光器なので、この場合とは違います。

そういえば3種類ある発光器の残りである眼発光器ですが、実はこれ今のところ何に使われているのかよくわかっていません。今後の研究に期待したいところです。また、発光器はホタルイカ同士のコミュニケーションに使われているのではないかとの説もあります。光ることで暗い海の中でも群れで行動したり求愛行動をしたりと、ホタルイカ同士のコミュニケーションに役立っていると考えられているのです。