イサザの形態
シロウオは、大人になっても全長4~6cmほどにしかならない小さい魚。丸みを帯びた細長い体にはウロコがなく、体には黒い点が並び、他のハゼ科の魚と同じように左右2つの腹びれがくっついて吸盤(きゅうばん)のようになっています。背びれと尻びれは体の後半部にほぼ上下対称についていて、脂びれがありません。尾びれの後ろ側の縁(ふち)はまっすぐか、ゆるいカーブを描いています。体全体が透き通った淡い黄色で、ほんのり赤い内臓や浮き袋などが透けて見えますが、死ぬと体を作っているタンパク質が分解して性質が変わるため、体の色が濁って真っ白になります。
また、シロウオには成長に関して変わった特徴があります。魚の多くは成長するのにともなって色や姿・形を変えていきます。ところが、シロウオは卵からかえって50日ほどが過ぎ、大人とほぼ同じ姿になると、その後は大きく変わることがありません。 体こそ大きくなりますが、子どもの頃の特徴を残したまま大人になっていくのです。これは幼形成熟(ようけいせいじゅく)の一種で、プロジェネシスと呼ばれる現象。つまり、皆さんが口にする頃のシロウオは子供ではなく立派な大人なので、それ以上大きくなったり姿や色が変わったりはしないのです。
ちなみに雌は雄よりも胸びれが大きく、遡上(そじょう)時期には雌の方が全長5cm以上になる個体が多くみられます。また雌の腹部下面にも小さい黒点が一列に並んでおり、雄にはないので見分けることができます。見分けるといえば、よく間違えられるシロウオとシラウオについて。シラウオには脂びれがあり、横から見るとずいぶんスマートに見えます。さらに上から見ると、シロウオの頭は丸みを帯びているのに対し、シラウオの頭は三角形をしているので、特徴を覚えていれば簡単に見分けがつきます。
イサザの地方名
シロウオは日本全国に分布している魚なので、各地にいろんな呼び名があります。秋田県ではシラヤ、三重県ではギャフ。茨城県や徳島県はヒウオ(氷魚)、広島県はシラウオ。旬が春なので「春告魚(はるつげうお)」なんて風流な呼び方をされることもあります。
北陸では石川県も含めてイサザと呼ばれることが多いのですが、同じ石川県内でも加賀地方ではスベリと呼ばれます。最古の和歌集「万葉集(まんようしゅう)」には、大伴家持(おおとものやかもち)が詠んだ「わが宿のいささ群竹(むらたけ)吹く風の音のかそけきこの夕べかも」という歌があります。この「いささ」は、ほんの小さいことを表す古い言葉。大伴家持といえば役人として石川県の能登地方を視察したことが知られていますが、その際に能登の川で獲られている小さな魚を見て「いささ・な(とっても小さい魚)」と呼んだことがイサザという名前の由来だったりしたら面白いですけどね。
ここまで能登のイサザの話をしてきましたが、実は琵琶湖(びわこ)には標準和名でイサザと呼ばれるハゼ科の魚がいます。この魚は琵琶湖にしかいない珍しい魚で、シロウオとは色や形が全く違います。姿を見ればすぐわかるのですが、言葉だけだとややこしいですね。