ガスエビの名前

和名の由来

〝ザコ〟エビなんて、どう考えても良い響きの名前ではないですが、どうしてこんな名前なのでしょう。ザコは漢字で書くと「雑魚」。自分より弱い立場の人を蔑(さげす)む悪口として使われますね。漁師や仲買人の間では「小さくて儲けにならない雑多な魚」のことを指していたのですが、それが悪口へと転じたようです。

ちなみに、ザコはもともと「雑喉」と書き、庶民が買いやすい小魚などの雑多な大衆魚のこと。お馴染みの「ちりめんじゃこ」も「ちりめんざこ」という呼び名が変化したものです。漁師にとっては儲けが少ない魚でしょうが、庶民の懐具合には強い味方。このような魚を扱う市場は「雑喉場(ざこば)」と呼ばれました。落語家の桂ざこばさんの名も、これが由来だそうです。こちらの意味が残っていれば、もしかしたらザコは褒め言葉だったかもしれませんね。

そういえば、クロザコエビやトゲザコエビはエビジャコ科に分類されていますね。ただ「シャコ」とついてはいても、これらは寿司ネタでお馴染みのシャコとは全く関係がありません。「姿がなんとなくシャコに似てる」くらいの感じでエビジャコと呼ばれています。それにしても本家のシャコの由来はシャクナゲの花なのに、こちらの由来は「雑魚」。悪い意味で使われている分、格差を感じます…。

様々な地方名

トゲザコエビは死ぬと黒く変色するため「ドロエビ(泥海老)」や「ツチエビ(土海老)」と呼ぶ地方もあります。ちなみに、石川県ではやや体の色が薄いクロザコエビのことを「白ガス」、体の色が濃いトゲザコエビのことを「黒ガス」と呼び分けています。言われてみればなるほどと思いますが、和名を知っているとちょっとややこしいですね。ただパッと見た感じだとトゲザコエビは殻の白い縁取りが目立つので、こちらの方が「白ガス」っぽくもありますけど。

他にクロザコエビに似て小ぶりな、ヒメクロザコエビ(旧称ホザワワタリエビ)やエビジャコ類はまとめて「小(こ)ガス」と呼んだりもします。同じ石川県でも加賀地方の橋立漁港(はしだてぎょこう)ではいかめしい見た目からか、「トラエビ(虎海老)」。クロザコエビのことは「白トラ」と呼びます。鳥取県ではやはり恐ろしげな見た目からか「モサエビ(猛者海老)」と言い、クロザコエビを「ホンモサ(本猛者)」、トゲザコエビを「ガラモサ(柄猛者)」と呼ぶそうです。とても強そう。また、この殻の見た目や手触りが由来なのでしょうか、ガラエビやガサエビと呼ぶ地方もあります。

ところで、福井県ではクロザコエビの仲間を「越前エビ」と呼んでご当地感を出していますし、鳥取県ではクロザコエビ(ホンモサ)を「とっとり猛者エビ」としてブランド化しています。石川県でも「賀寿(ガス)海老」とかおめでたい字を当ててアピールできると面白いですね。